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中堅・中小企業の海外事業展開における近未来型ビジネススタイル
―ローカルコミュニティとの共創戦略―

同志社大学商学部准教授 関 智宏

掲載日:2015年2月20日

近未来型のビジネススタイル―R社のケース

ASEAN+中国・インドからなる30億人市場をつかむことができる企業は、従前型の中堅・中小企業ではない。近未来型の企業である。この近未来型の企業は、従前のビジネスモデルではなく、近未来に対応した新しいビジネススタイルを確立している。

この新しいビジネススタイルには次の2つの特徴がある。その1つは、推進するビジネスがタイの経済社会の向上に貢献できる事業であるということである。従来、日系企業は進出後も日系企業と取引をする、つまり「日本村」が多く、日本国内に本社をおく日系企業のためのビジネスを追及してきた傾向がある。しかしながら、これから求められるのは、タイの経済社会の発展、すなわちタイ企業の発展ないしは国民の生活水準の向上に寄与するようなビジネスでなければならない。タイの経済社会との共存共栄こそが成功の鍵となる。もう1つの特徴は、製品でなく技術を売るということである。タイが日本の中小企業の進出先として魅力があるといっても、タイのローカル企業と競合するかたちでの進出は決してウェルカムではない。タイのローカルの製品技術を高度化することができる、日本の中小企業がもつ技術力が必要とされている。この技術を売るビジネスが成功の鍵となる。

この近未来に対応した新しいビジネススタイルを確立しようとする日系中小企業のケースを紹介する。この企業R社は、熱処理業を主たる事業としている。本社は大阪府八尾市で、従業員数は約60名である。R社は創業来、自動車や自転車などの部品の熱処理を行ってきた。熱処理は電気およびガスを多く使用するが、近年、電気やガスなど光熱費が高騰し出し、日本国内では採算がとれない可能性も考えられた。このことから、2012年から顧客も視察を行っているタイでの事業展開を本格的に模索することになった。

タイでの活動を進めていくために、アドバイザーであるK氏と顧問契約を締結した。このアドバイザーは日本人であるが、タイのローカル銀行の元副頭取であり、タイのローカル企業と深い関係を築いていた。顧問契約後に、定期的にタイの熱処理企業を訪問した。そのなかのタイのローカル大企業J社から国際合弁の打診を得た。このJ社は、2つの熱処理工場を有しており、1つは金型向け、もう1つは製品向けであった。金型事業主体の運営をしており、製品向けの熱処理工場は、おもにタイのローカル企業を顧客としており、その稼働率は30%で仕事が足らない状態であった。これはおもに熱処理の品質レベルが低いためであり、品質レベルを上げさえすれば新規顧客の開拓はできると考えていた。というのも、J社は、日本の特殊鋼メーカーと技術提携をしており、この特殊鋼メーカーは日系の大手自動車関連企業を顧客としていた。そこでJ社は、自社の製品向け熱処理工場の品質レベルを向上させるために、日本の中小サプライヤーであるR社の技術力が必要と判断し、国際合弁の打診をし、2013年6月に締結をした。

日本側であるR社にとっては、タイで円滑に事業を展開するために国際合弁が合理的な選択形態であった。というのも、国際合弁という進出形態を選択することにより、第1に、パートナーの工場や事務所の敷地を間借りすることにより、独資よりも初期投資が抑制される、第2に、税制など現地国法制度や経営幹部・一般労働者の確保・育成など生産以外の部分をパートナーに一任することで、現地国での事業の立ち上げ・展開のスピードが担保される、第3に、パートナーのファミリーネームなどがバックにあることにより知名度・信用度が向上する、といった便益が享受されるためである。

一方で、タイのローカル大企業であるJ社にとっては、R社の技術力により、J社の製品向けの熱処理の品質レベルを向上させることができる。さらにこのJ社の製品向け工場は近いうち、合弁企業として運営することになり、熱処理の品質レベルさえ上がれば、近い将来、日系の自動車関連企業とも取引を新規に始めることが期待される。

R社は、2014年のタイ経済の落ち込みから、タイ国内の事業については厳しい状況を強いられているが、逆に2015年からは伸びる見込みしかないのもまた事実である。

3.ローカルコミュニティとの共創戦略―日タイ中小企業ビジネスマッチングのケース

Profile

同志社大学商学部准教授 関 智宏(せき ともひろ)
2006年3月 神戸商科大学(現兵庫県立大学)大学院経営学研究科博士後期課程単位取得退学(博士(経営学))、2006年4月 阪南大学経営情報学部専任講師、2009年4月 阪南大学経営情報学部・大学院企業情報研究科准教授、2014年4月 阪南大学経営情報学部・大学院企業情報研究科教授、2015年4月より現職。この間、インペリアルカレッジロンドンビジネススクール客員研究員、チュラロンコン大学サシン経営大学院日本センター訪問研究員。現在、日本中小企業学会 幹事、アジア市場経済学会 幹事。大阪府中小企業家同友会憲章条例推進部、兵庫県中小企業家同友会アドック神戸など各企業・企業団体のアドバイザー。専門分野は中小企業論・中小企業経営論。
主要業績は、『現代中小企業の発展プロセス―サプライヤー関係・下請制・企業連携―』(ミネルヴァ書房、2011年)(財団法人商工総合研究所中小企業研究奨励賞準賞)、『タイビジネスと日本企業』(共編著、同友館、2012年)、『日本企業のタイプラスワン戦略(刊行予定)』(共著、同友館、2015年)。その他、著書・論文多数。

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