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中堅・中小企業の海外事業展開における近未来型ビジネススタイル
―ローカルコミュニティとの共創戦略―

同志社大学商学部准教授 関 智宏

掲載日:2015年2月20日

「タイプラスワン時代」における日本企業の展望

昨今のタイ国内の経済社会情勢を見ると、近未来のビジネススタイルは、必ずしもタイだけでは十分ではない。タイ政府は、外国企業誘致策としてこれまでゾーニングを中心とした税制優遇策を高付加価値型事業中心へと転換した(2015年1月から)。また最低賃金についても、地域別による差をなくし、タイ国内全域を一律化した(2013年1月から)。この最低賃金制度は、1日の最低賃金を300THBに、また1か月のそれを1万バーツにするというものである。この制度変更の結果、これまで都市部の主要な工業団地のブルーワーカーの担い手であった出稼ぎ労働者が工場労働をしなくなり、出身地であるタイのチェンライやイサーンといった東北地方など出身地に戻り、家族とともに生活をしながら農園を営むようになった。このためバンコク近郊では、労働者不足がさらにいっそう深刻化している。このような労働不足化現象への対応のために、バンコク近郊のローカル企業によれば、従業員数約60名のうち10名についてミャンマー人を採用している。

このような制度転換を前提とすると、これからタイへ進出しようとする外国企業は、タイ国内では高付加価値型のものをつくるかまたはサービスを提供するしかない。従前型のものは、ベトナムなどに販売しなくてはならないかもしれない。またコストの安い労働集約的なものづくりは周辺国であるミャンマーやラオス、またはカンボジアで行わなくてはならないかもしれない。これらの予測は、まさにASEANを構成する10ヶ国の経済格差を活用したビジネスであり、このビジネスが成功の鍵となると言える。

このようにタイを中心にASEAN内の経済格差を利用した国際分業を構築する動きは、「タイプラスワン」と言われる。韓国や中国の企業群はすでにASEANでビジネスを展開しているだけでなく、タイのローカル企業も確実に力をつけてきており、周辺国へ事業を拡張しつつある。たとえば、チリソースの製造・販売を手がける会社のケースがある。チリソースは、タイ国内市場は飽和状態にあり、厳しい競争環境を強いられている。そこでこの会社は、販路を広げるべく、食慣習が近いベトナムに販路を拡大するべく、ホーチミンにオフィスを開設している。また、旅行事業を手がける別の会社では、バンコクやチェンマイ、プーケット、サムイ島といったタイ国内の拠点でなく、タイ周辺国であるミャンマーやマレーシア、シンガポールなどにオフィスを開設している(この会社は、そのほかにもインドネシアのバリ島やウクライナにも拠点がある)。この会社では6か国語を駆使する従業員を販売・マーケティング長に任命し、インバウンドの事業展開を積極的に進めている。

このようなタイローカル企業の動きに反して、日本企業について言えば、筆者の感覚からすると、現在、海外事業展開を試みようとしている中堅・中小企業の多くが、タイを中心とする1ヶ国での事業展開に躍起になっているように見える。さらに、もっとも問題であるのは「タイプラスワン」の発想に乏しい(ダイバーシティ・マネジメントも得意ではない)という点である。国際的に見て、ASEANビジネスで遅れをとっているのは、日系の中堅・中小企業なのである。

筆者のビジネスマッチングにおける体験からすると、これからASEANのなかでタイに事業展開を試みようとする日系の中堅・中小企業にとっては、とくに現地の産業界と太いパイプのある現地の機関(および担当者)とつながることが、まずは重要であると考える。しかしながら、個々の企業と個々の機関(担当者)が直接的にかつ即座につながるということは決して容易ではない。さらに時間・費用といったコストもかかる。さらに昨今のASEAN事情およびタイ国内の経済社会情勢を鑑みると、時間をかける余裕もないが、タイ国内でなく周辺国を見据えたスケールで実践していかなければならないのも事実である。だからこそ、個々の企業同士に加えて、より広い次元で日タイのコミュニティ同士をつなぎあわせていく(現地コミュニティとのネットワーキングを実践していく)ことができる場づくりが、より多く実践されていくことが重要なのである。この実践づくりを誰が行うのかについては課題もあるが、あらゆる主体が主役となり、より多くの企業・機関(担当者)がつながり合い、互いに発信する情報を共有し合い、日系中堅・中小企業の海外事業展開における戦略実践のオプションを増やしていくことが求められる。

Profile

同志社大学商学部准教授 関 智宏(せき ともひろ)
2006年3月 神戸商科大学(現兵庫県立大学)大学院経営学研究科博士後期課程単位取得退学(博士(経営学))、2006年4月 阪南大学経営情報学部専任講師、2009年4月 阪南大学経営情報学部・大学院企業情報研究科准教授、2014年4月 阪南大学経営情報学部・大学院企業情報研究科教授、2015年4月より現職。この間、インペリアルカレッジロンドンビジネススクール客員研究員、チュラロンコン大学サシン経営大学院日本センター訪問研究員。現在、日本中小企業学会 幹事、アジア市場経済学会 幹事。大阪府中小企業家同友会憲章条例推進部、兵庫県中小企業家同友会アドック神戸など各企業・企業団体のアドバイザー。専門分野は中小企業論・中小企業経営論。
主要業績は、『現代中小企業の発展プロセス―サプライヤー関係・下請制・企業連携―』(ミネルヴァ書房、2011年)(財団法人商工総合研究所中小企業研究奨励賞準賞)、『タイビジネスと日本企業』(共編著、同友館、2012年)、『日本企業のタイプラスワン戦略(刊行予定)』(共著、同友館、2015年)。その他、著書・論文多数。

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